Thursday, September 8, 2016

「耳をすませば」聖地聖蹟桜ヶ丘階段の謎。


ジブリの「耳をすませば」といえばカントリーロードのノスタルジックな訳詞と、青春の恋模様を描いた名作です。どちらかというと女性に人気が高いように思うけど、自分もとても好きです。スピンオフである「猫の恩返し」も面白いですね。

ジブリ作品はモデルとなった街がどこそこだと話題になることが多いものの、確実にそこをモデルにしている、という映画はあまりないです。「千と千尋の神隠し」の九份や「魔女の宅急便」のストックホルムが参考にしているとは言われますが公式ではありません。

しかし耳すまはジブリにしては珍しく聖蹟桜ヶ丘で確定しています。いや公式に声明が出ているのかどうかは知らないけど、駅や風景等の現実の街並みをそのまま映像にしているので違うと言いようがないです。さらに京王百貨店のKEIOの文字がそのまま出ていますからね。京王がスポンサーになっているわけでもないようですが。今流行の新海誠は現実の街並みを使うアニメ映画として有名ですが、ジブリの中ではちょっと異色だといえます。

また、ジブリの他の映画はSF、ファンタジーなのか現実世界なのかがはっきりしていますが、耳すまはどちらとも言い切れないという意味でも特殊です。90%くらいは現実世界に基づいてるけど、冒頭の猫のくだりを考えるとファンタジーの世界だとも言えるし、不思議というより曖昧な世界観ですね。

前置きが長くなりましたが何が言いたいかというと耳すまはジブリ作品の中でも人気上位に位置する作品で、かつ実際の街がモデルになっていて、しかもそれが聖蹟桜ヶ丘という都心から近い場所なのでいわゆる「聖地巡り」の格好の対象になっています。聖蹟桜ヶ丘の街もまちぐるみでそれをプッシュしています。
聖蹟桜ヶ丘駅前の地球屋を模したポスト
さらには聖地巡り用のポスターまで配布してます。メインとなる聖地は図書館へと続くいろは坂の階段ですね。
いろは坂と階段。ただし映画内の構図とは違う。
他にも細かい聖地はいろいろあるのですが今回は聖地を紹介したいわけではないので割愛。今回お話したいのはこのシーンです。
左に「天守の丘」という石柱があるのがわかりますね。そして遠景は京王百貨店を見下ろしています。ところが実際にはこの風景は存在しません。なぜならこの二つは別々の風景だからです。

これが実際にある「天守台(関戸城跡)」の碑です。階段の両脇は森になっていて、見晴らしはよくありません。

これが聖蹟桜ヶ丘駅と天守台の碑の位置関係です。聖蹟桜ヶ丘は北側にありますが、天守台の階段は南向きに下っているので南北が正反対です。

こちらがいろは坂の途中から北側を見た風景。映画と少し向きが違いますが京王百貨店が見えます。天守の丘のシーンはこの二つを合成しているわけです。

それだけなら「へー」で終わりなんですが、ここで非常に興味深い事実があります。インスタグラムの #聖蹟桜ヶ丘 のタグを見ると今でもかなりの人が耳すまの聖地巡りの写真をあげているのですが、まったく違う謎の階段が聖地としてアップされているのです。それが以下の階段です。

上の位置関係図からわかる通り、この階段は天守の丘の碑もないし駅との向きも違う、耳すまに一度も出てこないまったく関係ない階段です。ところが驚くべきことに耳すま聖地に行った人はかなりの高確率でこの階段を聖地として写真を撮り、他にいくつも写真を撮ったであろう中からここを一番の聖地として選択しているのです。なんなら、インスタの10万枚の #階段 タグのなかでもこの階段の数はかなり上位に入ってくるくらいの勢いです。

いったいなぜそんなことになるのか。いくつか理由はあると思いますが聖蹟桜ヶ丘駅から地球屋のモデルとなったロータリーがある場所までいろは坂を登って道沿いに歩いてくると、その間には高台から駅側を見渡す開いた場所ってないんですよ。そしてこの階段はロータリーの手前にあり必ず通ることになるので、ここで開けた風景を見て「あ、ここが雫が階段を駆け下りるシーンだ!」と勘違いしてしまうのではないでしょうか。

しかし実際、この階段の上から見渡す風景は素晴らしいです。耳すまを抜きにしても、多摩丘陵のたおやかな斜面と平穏な街並みに溶け込んだ階段に思わず頬ずりしたくなるほどです。これから聖蹟桜ヶ丘に聖地巡りに行く人がこの記事を読んで、聖地と間違えないようにしたうえで「この階段もいい風景だね」と思ってくれたらと思います。
ロータリーにある洋菓子店にはバロンがいるよ