このブログはどちらかというと階段をメインにしているけど、階段を考える上で坂の存在は無視することができない。なので階段を考える前にまず坂の定義を考えたい。なぜなら「坂」というのは基本的に「階段」を内包すると考えられるからだ。
しかしまああんまり細かく書いても伝わらないし大雑把に概要を述べる。
坂というものの定義
を一般的に考えると「角度のついた道」と言えるだろう。「道」というのは基本的に人間が通行することを目的としている平面と言っていい。角度がついていても山の斜面は通行を目的としていないので坂とは言えない。そこを人が通ることを常態化することで坂と呼ばれうるようになる。こういった問題を考えるにあたって目的論的解釈というのは問題をはらむことが多いけど、この件についてはそんなに問題にならないはず。
むしろ問題となるのは「角度」のほうである。果たして何度から角度が付いていると言えるだろうか。
数学的に考えればどれだけ度が小さくても角度は付いている。ということは0を極限としていて、無限に0に近づくわけだから(無限論によるけど)0も含めるといえる。これは「真円は楕円の特殊な形」「正方形は長方形の特殊な形」と同型で、「平らな道は坂の特殊な形」ということができるだろう。
しかしこれはあくまで数学的な視点であって、専らリアリティを追求する自分としてはこれを定義とするのはいささか強弁であるように思う。坂というのはあくまで人間がカテゴライズするものなのだから人間の実感に沿ってなくてはならない。つまり、少なくともその角度は人間が実感できるものである必要がある。
聞いたところによると、人間は1度の斜面で寝転がるとその角度を感じることができるらしい。坂かどうか判断するためにいちいち道に転がっていると往来の危険があるし何よりも奇異の目にさらされるだろうことは想像に難くないのでおすすめできない。
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キャンパス内のスロープで転がる友人A どう見ても奇異な人だ。 |
実際のところ、そこに立ってみて斜めであることを少しでも感じられたら角度がある=坂である、と言えるだろう。もちろんこれは個人差があることになるが、私達は先に数学的定義を否定したのだから甘んじて受け入れる必要がある。
してみると、一応数学的定義を否定したにしても私達の周りにはなんと坂が多いのだろうと気がつくはずである。どんなに平坦な土地に住んでいても少し周りを見渡せば多少の勾配の道はあり、それはすべて坂なのだ。
これが坂を歩く人間を「歴史家」に向かわせる
大きな要因であると自分は考えている。坂好きには大きく分けて二つの人種がいる(と自分は思っている)。ひとつは名前を持つ坂が好きな有名坂派、もうひとつは坂そのものが好きな無名坂派である。とはいったものの、この二つにおいて前者の有名坂派のほうがおそらくは圧倒的に優勢である。
有名坂派の代表はなんと言ってもタモリであろう。タモリの坂好きは坂愛好家のみならず一般に知られる事実であるようだけど、タモリは他の趣味でもだいたいにおいて共通しているように「江戸時代そこには何があったのか」のように歴史的経緯や名前の由来から坂を見ている。自分もそれを否定する気はなく、坂の由来の看板を見ては足元に江戸があることに感動を覚えることも多い。
ひとは名前が好きである
名前とは記号であり、象徴である。そこに名前があると単純に記憶に残りやすいし元々あった以上の意味を持ち始める。
ところが名前を持つ坂というのは実は多くが昔から往来が多かった場所なわけで、それはつまり交通量が多く、車社会の到来とともに整備されなだらかで広い道へと変貌している。
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富坂 |
昔の情景はわからないけど現代において○○坂という名前を聞いて行ってみるとこのように幅が広いただの道路というところが多い。やはり街歩きをするにあたってこのような情景では少し侘びしい気がしてしまうものだろう。
それに、名前が付いている坂というのはかなり東京に偏在している。坂のブログ等をみてもたいては東京を中心にしている。街歩きという観点からするとあまりに東京に集中してしまっては街歩きという文化を自ら先細りさせてしまっているようにも思える。
無名の坂もいいものである
ということはことさら言うほどのものでもない。急な坂道や、ながーく続いて途中でくねっと曲がってる坂道などなど、非常に味わいがある。そういう素敵なところはいっぱいあるんだけど、そういう無名坂を歩こうとすると大きな問題があるのである。
無名坂ってどこにあるの?
というものだ。有名坂は昔から地図がいっぱい作られてきたのですぐに探し出せる。根気があれば数年で東京のめぼしい有名坂を制覇することもできるだろう。それに対し坂の定義から考えても無名坂はあまりに数が多いし、地形図と照らしあわせてもそこから実際のいい坂を見つけ出すことはかなり困難である。適当にあたりをつけていってみるしかないのだ。それはそれで楽しいことではあるんだけど。
そこでなんとなくわかってきたと思うけど、階段にはそれらをカバーして余りある魅力が詰まっているのである。
階段とはなにか に続く。